2009年2月10日火曜日

宋冬(Song Dong)|「Waste Not / 物尽其用」

先週スギ花粉の飛散が都内で確認され、今週からテレビのお天気コーナーでも花粉情報が毎日取り上げられるそうです。花粉が舞い上がろうとも、東京画廊+BTAPは今週も元気に営業しております。


さて、来る2月13日より、宋冬(Song Dong)の作品が、イギリスのThe New Art Gallery WALSALLで開催される「Re-Imagining Asia」展(09年2月13日~4月5日)に展示されます。本展は昨年3月にベルリンのHaus der Kulturen der Welt:The House of World Cultures (HKW) で開催された展覧会の巡回展で、出品される「Waste Not / 物尽其用」は2005年の東京画廊+BTAP|北京、2006年の光州ビエンナーレに続き、4回目の展示となります。



Re-Imagining Asiaに出展される「Waste Not / 物尽其用」は、作家本人の母親をテーマとした作品です。宋冬の幼少期は毛沢東主席による共産主義化が激化する時代で、国民の大半は金銭・物資が不足する中、極めて貧しい生活を送っていました。そのような状況下で、宋冬の母親は布きれやビンの蓋などのありとあらゆる物品を収集し、いつか再利用しようと捨てずに屋内に大切に保管していました。気づけば家中がもので溢れ返るようになり、中国が近代化を迎えた後も、彼女の収集癖は納まるどころか益々エスカレートしていったと言います。

ある日、宋冬の父親が心臓発作で突然この世を去ります。家族全体が悲しみに包まれる中、母親の受けた喪失感によるショックは大きく、立ち直られないほどに憔悴しきっていました。アーティストとして既に活動をしていた宋冬は、落ち込む母親を勇気づけようと、母親をテーマとした「Waste Not / 物尽其用」の作品を立ち上げ、母親と共に制作に取り組みます。物尽其用(英訳:Waste Not)とは中国語で、「再利用できるものは可能な限り利用し、捨ててはならない」ことを意味します。(中国語の辞書にも掲載されているそうです)この言葉は、共産党独裁化の時期に大半の国民が行った「収集し再利用する」行いを表しており、宋冬の母親の収集癖も、この言葉に由来していると言えるでしょう。







作品「Waste Not / 物尽其用」では、彼女が収集したものが床一面に陳列され、天井に向かって山のように積み上げられます。私たち鑑賞者にとってみれば、どの収集物も皆同等の価値しか見出せませんが、彼女にとってみれば、物ひとつひとつに過去の思い出・価値の位置づけがあり、それは私たち部外者が踏み入ることのできない、一線を画した個人的な世界だと言えます。また一方で、厳しい時代を生き抜いてきた世代にとって物を収集することは当然の習慣です。したがって、この作品は当事者と鑑賞者との間のジェネレーション・価値観のギャップを顕現させるコンセプチュアルな装置としても機能しているのです。

東京画廊+BTAP|北京の展覧会では、ギャラリー上部の窓に、天国の父親へのメッセージとして「お父さん心配しないで、お母さんと僕たちは元気だよ!」と書かれたネオンサインが掲げられました。一見ゴミの山に見えてしまうこの作品も、母親の世代たちの生きることへのパッションと、宋冬の両親に対する愛情を一身に感じられ、中には号泣して帰るお客様もいらっしゃったそうです。(書いている私も、この作品を知った時、結構ジーンときました・・・)

イギリス、ウォルソーの展示室上部にも窓があり、イギリスからも父親へのメッセージが送られています。「Waste Not」は、Song Dong and Zhao Xiangyuanと親子連名で発表されている作品なのですが、実はイギリスでの展覧会を前に、「Waste Not」の作家のひとりである宋冬の母親は、突然他界してしまいました。宋冬の受けたショック・悲しみは、計り知れないほど大きなものですが、家族全員で進められてきたプロジェクトとして、今後も続けていく予定です。今年6月から開催予定のニューヨーク近代美術館MoMAでの展示を控え、「Waste Not」は宋冬にとってさらに重要なプロジェクトとなりました。

次回の記事ではオープニングの様子をお伝えする予定です。

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