この報告会は2007年から取り組んでいる「Garbage Project」の一環で、大田区立郷土博物館学芸員の加藤緑さんとともに大巻が貝塚見学を行った後に、開催されたものです。このプロジェクトでは「アート」と「アートでないもの」、「美しいもの」と「そうでないもの」の境界線を、ワークショップや作品制作を通じて考えます。昨年8月には、東京都廃棄物処埋立処分場へ訪問、その後報告会としてトークショーを開催しました。
報告会はトーキョーワンダーサイト渋谷に併設されているアートカフェkurageで行われました。
初めに大田区立郷土博物館学芸員の加藤緑さんが、縄文時代の貝塚について解説しました。貝塚から発掘されたものや、それらの遺跡から推測される縄文人の生態について、詳しくお話しいただきました。貝塚には人間が食べた貝の貝殻のほかに、土器・人骨も発見されており、また断層には、何かを焼いたと思われる灰の層も確認されているそうです。貝塚は未だ解決されていないことが多く、どのように用途で使用されていたのかは断言することはできません。しかし、人骨や灰が発見されていることから、貝塚は単なるゴミ捨て場として利用されていたのではなく、自然から生まれたものを返し、感謝し、未来の豊作を祈る、神聖な場所として存在していた可能性があるといいます。
次に大巻伸嗣が見学報告を行いました。縄文時代の貝塚と、現代のゴミ処理埋立地を比較し、汚いものには蓋をするという現代的な美意識について、問題提起をしました。大巻はこのプロジェクトが始動した2007年以来、「ゴミとは何か」という問いかけを起点に、美術業界外のさまざまな専門家とともにリサーチを行っています。2007年には、参加者とともに作り上げた作品「KISEKIの庭」を中国・韓国で発表しています。
会場には、カンボジアのゴミを用いて作品制作を行ったアーティストの方がいらっしゃいました。カンボジアにはスモーキーマウンテインと呼ばれる、運び込まれてきたゴミが積もりに積もった巨大なゴミ処理所があるそうで、そこで拾い集めたゴミを利用して制作をしているそうです。カンボジアには、このゴミの山で生活をする貧困層が存在し、彼らは富裕層によって排出されたゴミから再利用できるもの拾い集め、それを売ることで生計を立てているそうです。作家は、カンボジア社会に、捨てられた後に再利用されるというゴミのサイクルが存在することを知って、ゴミという概念をもう一度考え直すきっかけとなったと言います。
この報告見学会が行われた同時期に、ブラジル人作家ヴィック・ムニーズの「ビューティフル・アース」展が、ワンダーサイト渋谷で行われていました。南米最大規模のゴミ処理場で働く人々のポートレートを、地面にゴミを巧妙に配置しながら描いたものです。作家はわれわれ人間が過去に排出してきたであろう膨大な量のゴミを、作品に形を変えて可視化させています。このポートレートは、ゴミが生活資源であり生命の基盤を成している人々の内面を抽象的に表すと同時に、ブラジルの複雑な社会事情を表面化させていると言えるでしょう。作品のベースである土色は自然・大地を連想させ、散乱するゴミとのコントラストは、自然と人工物が併存する現代社会を想起させます。
今回の報告会では、以前からこのプロジェクトに関わる専門家や作家の方多く参加し、アートという枠を超えたディスカッションが2時間にわたって展開されました。大巻伸嗣は、これらの議論を手掛かりに、「環境」「ゴミ」をテーマとした作品を制作する予定です。プロジェクトの進展を追いながら、随時レポートしていきたいと思います。
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